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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)3052号 判決

原告

田中英巳

被告

株式会社大阪屋

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の申立

被告は原告に対し金四四〇、五〇八円および右金員に対する昭和四一年二月八日(本件不法行為発生の翌日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件事故発生

とき 昭和四一年二月七日午後二時三〇分ごろ

ところ 東大阪市春日本通五丁目八五番地先路上

事故車 普通貨物自動車(大阪四も二六八七号)

運転者 訴外山本正樹(被告従業員)

受傷者 原告(当時二三才)

態様 横断歩道上を南から北へ自転車で横断中の原告に、西から東へ相当の速度で進行して来た事故車が衝突し、これを転倒させた。

傷害 そのため原告は、頭部外傷Ⅱ型(頭頸部打撲)左背部打撲傷、外傷性頸性頭痛、右臀部打撲傷、左腰部臀部打撲傷の傷害を負つた。

二、損害の填補

原告は訴外山本から本訴損害中一〇六、四〇〇円の支払いを受けた。

第三争点

(原告の主張)

一、責任原因

事故車は、訴外山本の所有であるところ、同訴外人は被告方での担当職務である外勤のため、被告の了承の許に事故車を社用に供していた。

二、損害

(一) 通院交通費入院雑費附添費等 六一、〇〇〇円

(二) 逸失利益 計一五一、一七四円

収入(月額) 二七、一五二円(平均)

昭和四一年二月分手当減額分 二、七〇五円

同三・四月分給料(全額) 五四、三〇四円

同五月分給料減額分 一一、一八七円

同夏季賞与減額分 一一、三一二円

同年末賞与減額分 一二、〇〇〇円

同四二年六・七月欠勤(三四日)分 五二、〇一四円

右による同年末賞与減額分 七、六五二円

(三) 慰藉料 三〇〇、〇〇〇円

(四) 弁護士費用 三五、〇〇〇円

三、請求額

上記損害額計五四七、一七四円より前記填補分一〇六、四〇〇円を差引いた四四〇、七七四円の内金四四〇、五〇八円。

(被告の主張)

一、本件は訴外山本の私用もしくは単なる通勤のための運転中、業務執行外で生じた事故である。当時同訴外人は被告方入社五日目で、入社に際して申し出もなかつたので、被告としては同訴外人の事故車所有を全く関知せず、仮にこれを通勤用に使用していたとしても被告方まで乗つて来ていたことはないので、従つて被告業務に供したこともない。

抑々事故車は貨物自動車だから被告のような金融業の用に供することが不適当である。

二、以上の次第であるから被告には事故車の運行支配も運行利益もない。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

〔証拠略〕によると、事故車運転者訴外山本は、金融会社である被告会社に本件事故発生に極く近い頃入社し、集金等の外勤業務を担当していたものであることが認められ、又〔証拠略〕を綜合すると、同訴外人は自己所有の事故車を日常被告会社への通勤に使用していた他、その勤務時間中には、被告の了知のもとに自己の担当する外勤業務にも使用することがあつたものであるところ、本件事故は被告よりの退勤途次に発生したものであることが推認される。この点に関し、被告の業務使用及びその了知を否定する証人浅野の証言部分は前掲諸証拠に照らしたやすく措信できない。

ところで右のように従業員が通勤用に使用する所有自動車を勤務会社の業務にも使用していた場合でも、その態様程度には千態萬様の段階がある訳であつて、右のような関係の存在の故に、勤務先である会社に、従業員の通勤途次におけるその所有車両による事故の責任を負わせうるとするには、その業務利用の形態や程度からみて、当該車両と会社業務との関連が密接に認められ、謂はばその存在が少くともその勤務時間中は日常的ないし継続的に会社の営業活動・営業組織の中に組込まれているとみうるような(従つて、そこに会社のこれに対する自己所有車に対すると同様な一時的ではない支配ないし支配可能性が認められる)関係が存することが必要であると解せられるのであるが、そうとすれば、本件事故車の場合には、本件全証拠によるも、事故車の被告業務への利用の態様程度が明らかでなく、右のような特段の関係を認めるに足るものがない上、加之、〔証拠略〕によれば、当時被告は従業員数一七―八名でそのうち外勤業務者は七―八名であつたところ、会社保有車両は乗用車六台と単車二台があり、或る程度外勤従業員の業務遂行を確保するに足りえたと認められること、前判示のように訴外山本は入社後間もないものであり、事故車は貨物自動車であつたこと(尤も〔証拠略〕より推測すると所謂バンと称する貨客車と思はれる)、又仮に前記のような会社に責任を負わせうる特段の関係を前提としても、退勤途次の事故として、会社に現実の責任を認めうるかについては、事故発生の時間的距離的関係が等閑視しえない問題であると解せられるところ、〔証拠略〕によると、当時被告会社は大阪市天王寺区下寺町一丁目三番地に所在していたと認められるのに対し、事故発生地は東大阪市であることなど、むしろ事故車と業務利用の密接性・密着性の点からは消極的な推認の要素として働らくと思はれる諸事実が認められるのであつて、そうすると結局被告に対しては本件事故の責任を問うことはできない、換言するなら、未だ被告に当時事故車の運行支配・運行利益の帰属があつたとは認めるに足りないものといわねばならない。よつてその余の点につき判断するまでもなく原告の被告に対する本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却すべく、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡宜兄)

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